クライマーが営む自然とキャンパーをつなぐ拠点「NATURAL ANCHORS(ナチュラルアンカーズ)」【ふらっとショップ探訪 #2】

公開日:2022 / 10 / 15
最終更新日:2022 / 11 / 10

みなさんはキャンプのギアをどう選びますか。ネットに情報があふれる時代、無数のレビューを見比べて、とりあえず無難なものを購入していた筆者。いつしか実物を手に取って選ぶ機会も少なくなりました。

そんな折、何気なく立ち寄ったのが個人経営のアウトドアショップ。選りすぐりのギアや珍しいガレージブランドなど奥深い世界が広がっていました。

ネットや量販店とは一味違う魅力を放つショップを巡る連載「ふらっとショップ探訪」。第2回は、四方を山に囲われた長野にある「NATURAL ANCHORS(ナチュラルアンカーズ)」を紹介します。

移転で交流が盛んに


長野市役所近くのビル1階にある「NATURAL ANCHORS(ナチュラルアンカーズ)」。真っ白の外壁に深紅色の玄関口がよく映えます。ガレージを改装したという店内には、色とりどりの山道具がひしめき合っていました。


品ぞろえを見ると、本格的な登山ギアからアウトドアアパレルまで様々。「山と道」をはじめとするUL(ウルトラライト)系のギア、コッヘル、バーナー、山の行動食のほか、地元長野で作られているアウトドアグッズなどが並びます。

店主の戸谷悠さんは「実際に自分で試して納得したギアや理念に共感したブランドのものを仕入れています。大きめの専門店ではあまり見かけないラインナップが多いですよ」と語ります。


2015年4月、長野市内の国宝・善光寺近くの古民家で営業をスタート。路地裏で目立たない立地ながらも、海外から珍しい品を買い付けるマニアックな店として知られるように。一方で「アウトドア歴の浅い初心者にも門戸を広げたい」との思いから移転を決意。20年5月に現在の場所で再スタートしました。

コロナ禍に見舞われてからは海外での仕入れが困難となり、現在は国内のガレージブランドのラインナップを広げたそう。客層は30代前後が中心で、登山やキャンプの行き帰りに訪れる人も増えているといいます。中には、体力が落ちてきたという年配の方が、UL系の軽い装備に一新したいと相談に訪れたこともあるそうです。


同じ建物内にはカフェやヴィンテージ家具の倉庫が隣接。各店舗をスタッフやお客さんが行き来できるというユニークな動線で、戸谷さんは「店の枠を越える交流ができるし、活気が生まれて気に入っています」とは笑顔を見せます。

なお、2022年11月3日からは、同住所の2階に移転するとのことです。

原点はクライミングとの出会い


店内の一角に飾られている木製のクライミングホールド。気になり話を聞いてみると、実はお店の成り立ちと深く関係していました。長野出身の戸谷さんは高校時代までアウトドアとはほぼ無縁だったそう。大学在学時のクライミングとの出会いが人生を大きく変えたといいます。

たまたま下宿の近くにあったのがクライミングジムの名門「ランナウト」(東京都国分寺)。「暇だったので試しに体験したのがきっかけです。手足を運ぶ技術次第で登れるパズルゲーム的な要素が新鮮でした。次行くときには靴を買うほど夢中になっていましたね」と振り返ります。

「当時は若かったというのもあって、クライミング一本で生きていくと意気込んでいました」。
大学を卒業してすぐ、カナダのヨセミテと称されるスコーミッシュへ。車中泊などしながら岩場に通ってクライミング漬けの日々を送りました。一時帰国後、今度はニュージーランドに渡り、日本食店で働きながら技術を磨きました。

ニュージーランドでクライミングをする戸谷さん(戸谷さん提供)

クライミングで生計を立てる難しさを感じ、いったんは一般企業で約8年勤務。そんな中、家庭の事情で地元の長野に戻ることに。漠然と山に関する仕事に関わりたいと考えていた折に、昔はあったはずのアウトドア用品を扱う個人店が無くなっていることに気づきます。

「大型店舗やネットの普及が理由なのか確かではないけど、スタッフとお客さんの距離感が近いローカルな店がないのはさみしく感じました」と戸谷さん。元々ギアが好きで、海外経験から日本未上陸の珍しい品も扱えると考え、一念発起して地元で同店を始めることにしました。


クライミング畑の戸谷さんですが、開業当初から幅広い客層をターゲットとし、あえてクライミング用品は扱っていません。一方で、自身のクライミングの経験から、「山には簡単に命を落としてしまう危険が潜んでいます。お客さんには山の魅力だけでなく安全面もしっかり伝えたい」と力を込めます。

USEDコーナー


同店で特徴的なのがUSEDコーナーです。建物2階の共同スペースの一角には、衣類やザック、シューズ、小物類が整然と陳列されています。どれもこれも常連客らが持ち寄った中古のアウトドア用品。使い込まれたものから、新品に近いものまでさまざまです。


タンスの肥やしや使わず捨てるものを引き取り、必要な人に使ってもらうことで無駄をなくす取り組み。3年半ほど前にコーナーを設けて以降、徐々にお客さんに浸透していったそう。「今ではUsedを見るために定期的に来店されるケースもあります」と手ごたえを語ります。

持ち込んだ人が値付けをし、売れた場合は全額を同店で使えるポイント、もしくは委託手数料を引いた現金で返すという仕組みです。


これまでに100人近くがUSED品を持ってきたそう。戸谷さんは「ネットで売ることもできると思いますが、お店が媒介して対面で説明することで納得して使ってもらえます」といい、「農作業で羽織るのにちょうどいいと、アウターを購入する人もいましたよ」と笑顔を見せます。意外な掘り出し物が見つかるかもしれませんよ。

オーナーのおすすめ3選

STATIC(スタティック)の「ALL ELEVATION LONGSLEEVE」


東京都あきる野市のブランド「STATIC」。プラスチックごみ問題と向き合い、環境負荷の少ない素材を使ったアウトドア製品を提案しています。ALL ELEVATION LONGSLEEVE はポリプロピレン混合のハイブリッドウールのモデルで速乾性と耐久性に優れます。

戸谷オーナーの一言メモ
「耐久性の高さに驚きます。また、2泊3日のトレイルで着続けても臭いませんでした。ウールと化学繊維のいいところを取り、防臭性や汗抜けの良さに驚きます」

chant!(チャント)の「Glider Pack」


2020年に長野で立ち上げられたハンドメイドのブランド「chant!」。造り手の佐藤秀範さん自身もロングトレイルやスキーで商品テストをされており、活動に集中できる工夫が随所にみられるバックパックです。

戸谷オーナーの一言メモ
「山でも街でもなじむデザイン性の高さが魅力。背面ががばっと開くのでギアへのアクセスにも困りません」

mauve(モーヴ)の山バッジ


長野県松本市在住のジュエリー作家の山本葵さんが手がける山バッジ。長野の「県鳥」である雷鳥やカモシカ、登山道具のハーケンなどをモチーフにした様々なアクセサリがあります。

戸谷オーナーの一言メモ
「購入した方は帽子やサコッシュ、バックパックに付けて楽しんでおられます。山小屋でしか手に入らないバッジもあるので登山ついでに探してみては」

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まとめ


店名の由来はロッククライミング用語の「ナチュラルアンカー」。岩を傷つけずに登るための支点を指すといいます。「自然と人をつなぐ場でありたい」という戸谷さんの思いが込められています。

ちなみに今回紹介した店舗のほかにも、キャンプ場などがある施設「長野フォレストヴィレッジ」内の物販スペースでは全ての製品をセレクトし、常駐のスタッフもいるそうです。長野市街地から車で約25分とアクセスも良いので、キャンプついでに立ち寄るのもおすすめですよ。

「NATURAL ANCHORS(ナチュラルアンカーズ)」基本情報

所在地:長野県長野市鶴賀緑町1607-12 1F
※2022年11月3日より、同住所の2 階に移転。1 階での営業は同年10月30日まで。
営業時間:11:00~18:30(火曜、第1・3・5月曜は定休)
電話番号:026-217-8512
公式サイト:http://naturalanchors.com/
公式フェイスブック:https://www.facebook.com/naturalanchors
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/naturalanchors/

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ブッシュトモロー

アウトドアライター。新聞記者を経てフリーに転身。アウトドア業界や野外活動の現場で取材執筆に携わる。主に夏は登山、冬は狩猟という生活スタイルで、ネタと獲物を日々追っている。
Twitter:@bush_tomoro

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