仕事、学校の後に焚き火を楽しむ人も多い北欧5カ国の焚き火事情とそのルール

公開日:2021 / 07 / 05
最終更新日:2021 / 07 / 05

かつて氷河が削った大地に広がる豊かな自然と、寒冷な気候を持つ北欧の国々では、生活の中にアウトドア文化が根付いており、多くの人がその雄大な自然の恩恵を受けています。

そんな北欧諸国では、仕事終わりや学校帰りや休日に火を起こして焚き火を楽しむ人が多いです。北欧諸国は「自然享受権」と呼ばれる慣習法も制定されているため、日本に比べて自由に焚き火を楽しめます。ですが、森林火災や土壌負荷増大などの問題もあるため、ある程度ルールが設けられています。
(各国の自然享受権の自由度については【北欧のアウトドア事情】みんなの自然をみんなで守って楽しむ「自然享受権」についてという記事で詳しく書いています)

特に空気の乾燥する春や夏は日照時間が長く、アウトドアを楽しむ人が増える一方、火災のリスクが高まるので制限が多くなる傾向にあります。
(北欧諸国の春・夏は、空気が乾燥しており晴れの日が多く、秋・冬は空気がじめじめしてどんよりした天気の日が多くなります。日本とは逆ですね)

今回は、そんな北欧各国の焚き火事情とそのルールを紹介します。

スウェーデン


スウェーデンは北欧諸国の中で最も自然享受権の自由度が高く、自然の中のどこでも焚き火ができる権利が認められています。一般的に直火で焚き火を楽しんでいますが、毎年焚き火が原因の森林火災が起きているため、以下のような「焚き火のルール」が制定されています。

スウェーデンの焚き火のルール

  • 春、夏の乾燥した季節に消防隊が火災のリスクが高いと判断した場合、自治体によって焚き火の制限や禁止の勧告が出されます。この期間に焚き火をする場合、所属する自治体の焚き火情報を逐一確認すること。
  • 既存の焚き火スペース(石を積んで作られた場所など)を使用することが推奨されています。新しい場所で焚き火を起こす場合、土壌や植生にリスクを与えないように苔や泥炭地、腐葉土の上での焚き火は避けること。熱で割れるので、岩の上での焚き火も禁止。
  • 自然保護区や国立公園では個人での焚き火は禁止。ただし、専用の焚き火スペースがある場合は焚き火が許可されています。
  • 落ちている枝や松ぼっくりを拾って火を起こすことは許可されていますが、木を切ったり樹皮をはがすのは許可されていません。倒木は虫や動物のものなので薪として利用するのは禁止。
  • 焚き火を起こすときは厳重に火の管理をし、完全に消火してから10分以上管理下に置くことを推奨。完全に消火し、痕跡を残さないように立ち去ること。
  • 緊急時に生命を守るために起こす焚き火は、いつでもどこでもOK。

参考:Visit Sweden – cosy camp fire –

ノルウェー


ノルウェーの焚き火のルールは基本的にはスウェーデンと同じですが、いくつか独自のルールがあります。

ノルウェーの焚き火のルール

  • 乾燥する季節は火災のリスクがあるため、4/15~9/15までの間は森林内やその近くでの焚き火は禁止。火災のリスクの少ない雨上がりの湿った土の上や、森から離れたビーチでは可能です。また、この期間でも庭や自治体が許可する場所での焚き火は許可されています。後述する6月の夏至祭では火災に気をつけて、大きな篝火(かがりび)を焚くのが許可されています。
  • 風の強い日に防火設備のない場所での焚き火は禁止。焚き火をする場合でも、薪は風上に置き、火から離しておくこと。
  • 焚き火をする場合、水とシャベルを近くに用意しておき、焚き火が終わると水をかけてシャベルでよくかき混ぜ完全に消火すること。
  • 先住民族が住んでいるラップランド地方など、一部の自治体では焚き火をするのに制限がされているので、焚き火が許可されているエリアかどうか自治体のwebサイトなどで確認すること。

参考:Visit Norway – The rights to roam – 

デンマーク


北欧の国々の中で最も人口密度が高く、自然やプライベートを守るために自然享受権の制限が多いのがデンマークです。焚き火に関しても制限が多く、デンマークの人々は1954年に制定された消防法に基づいて焚き火Hygge*を楽しんでいます。
*Hygge(ヒュッゲ):デンマーク語で「お気に入りのモノや人に囲まれてリラックスする時間」を指す単語。定義は曖昧なので、いろんなスタイルのHyggeがあります。

そんなデンマークの焚き火ルールは以下の通りです。

デンマークの焚き火のルール

  • 3/1~4/30、11/1~12/15の期間は、承認を得られた場所以外での焚き火が禁止されています(ただし、自治体によって多少の違いがあります)。一部の自治体や学校、個人の家の庭など、消防団に申請して焚き火の承認が得られた場合は、この期間でも焚き火が可能です。デンマークでは幼稚園や学校で焚き火をすることがあるので、そういった教育機関は焚き火の許可を得て、焚き火禁止期間も焚き火Hyggeをしています。
  • 焚き火が許可されている期間でも畑や森の近くでは、火災のリスクを避けるためや農作物への損害を避けるために焚き火ができません。こういった場所では焚き火禁止の看板が置いてあることが多いので、焚き火を楽しむ前に周囲の看板や畑、森林の有無やを確認します。
  • キャンプ場やハイキングコースなどの公共の場にある焚き火スペースは、承認を得ているので、いつでも焚き火を楽しめます。
  • ビーチで焚き火をする場合、火を小さく、完全な管理下において楽しむこと。またこの場合、他人が火災と勘違いして通報するリスクについても理解しておくこと。誰でも使ってOK。
  • 乾燥する春、夏は、火災リスクが高くなるので、自治体によっては焚き火警報を出すことも。

デンマークでは森林の近くでも焚き火が禁止されていない場所、クリスマスマーケットなどのイベントでは、直火ではなく焚き火台を使って焚き火Hyggeを楽しみます。

この焚き火台は、日本のような折りたたみ式ではなく、大きく直立式のものを使うことが多いです。

参考:wild denmark , Fire & Burning.DK

フィンランド

国土の8割が森と湖で占められているフィンランド。スウェーデンやノルウェーのように自由度の高い自然享受権が保証されています。焚き火のルールもデンマークほど厳しくはなく、スウェーデンと基本的に同じですが、独自ルールもあります。

フィンランドの焚き火のルール

  • 国立公園や先住民族が住んでいるラップランド地方では原則焚き火が禁止。専用の焚き火スペースがある場合などは、焚き火が許可されていることもあるので事前によく確認すること。
  • 特定の場所でのみ焚き火が許可されているが、春や夏など乾燥している季節に火災の警報が出ている期間は焚き火禁止。
  • フィンランドは国土の8割が森林と湖で占められているので、他の北欧の国々に比べて森林火災のリスクが高い。よって、森林内での焚き火は禁止されている(専用の焚き火スペースがあればOK)。

参考:Visit Finland – everyman’s rights –

アイスランド

アイスランドは島がまだ若く、溶岩に覆われ土も少ないので自然に負荷がかかった場合回復に膨大な時間がかかるため、自然享受権は北欧の国の中で最も厳しいです。

アイスランドの焚き火のルール

  • 焚き火は特定の場所でのみ許可され、首都のレイキャヴィーク近郊では直火での焚き火が禁止。
  • 公有地で許可されていない場所での焚き火は違法。
  • 僻地(へきち)や家の庭などで焚き火を起こすのは、許可される場合がある。

参考:Visit Iceland – The rights to roam Iceland –

夏至祭の篝火


夏至祭の日に大きな篝火(かがりび)を焚いてお祝いをします。

デンマークやノルウェー・フィンランドの一部地域では、1年で最も日が長い夏至の日は、魔が宿ると信じられているため、夏至祭で大きな火を焚いて厄除けの祈願をします。この日は焚き火の規制が一部解除されるので、水辺など火災のリスクの低い場所で各々が大きな篝火を焚き、消防庁も見回りをしています。

北欧神話が根付いてた北欧諸国。後に伝来したキリスト教の文化と混ざって「魔を払う=魔女を追い出す」風習が残っている地域もあり、夏至祭の大きな篝火で魔女の人形を焼くことがあります。

夏の北欧は22時~23時まで火が出ており、特に北極圏では一日中日が沈まない白夜となるため、北欧の人々は夏至祭の日に真夏の明るい夜を祝い、大きな火の周りで歌って飲んでお祝いします。

反対に冬は午後4時前に日が沈み、北極圏では一日中日が登らない極夜となる地域もあります。北欧の冬は寒くて暗いので、1年で1番明るい夏至祭は北欧の人々にとって1年で最も大事なイベントの一つだそうです。

日本の焚き火事情と焚き火台

火災防止や土壌・芝生の負荷低減のため、日本のキャンプ場では直火禁止となっている場所が多く、焚き火台の上で焚き火を楽しむのが一般的となっています。

そのため、日本では折りたたみ式で軽量コンパクトな多種多様な焚き火台が販売されていますね。

「どこの国も事情が違うから焚き火の楽しみ方は違うけど、みんなが焚き火台で自然環境に配慮するのは最高にクールだよね」

北欧でのアウトドアを教えてくれた友人と、それぞれの国の焚き火事情について話していたときにこう言われたことがありました。北欧の国々では一般的に直火、もしくは直立式の大きな焚き火台を使うことが多く、日本の焚き火台を珍しく感じたそうです。

また、北欧の人々は手軽に焚き火を楽しむときにアルミ製の使い捨て焚き火台が使うことがあるようですが、「サスティナブルじゃない」という意見も。

日本よりも焚き火が自由に楽しめるとはいえ、北欧の国々でも毎年制限されている期間・区域で焚き火をする人や、焚き火が原因の森林火災が起きているため、焚き火の制限については年々問題になっているそうです。

「日本の焚き火台を使ってもっと手軽に、かつ環境負荷に配慮した焚き火ができそうだから、是非使ってみたい」と言ってくれた友人。私の愛用している「スノーピーク(snow peak)」の焚き火台の写真を見せたら、「シンプルなデザインで使いやすそう」と言ってくれました。

自然を楽しむこと、その中で焚き火を起こしてリラックスすることは、国や事情が違っても共通の文化なので、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックが落ち着いたら、日本で焚き火台を使った焚き火を楽しみながら、異文化交流を楽しんでみたいです。

おすすめ記事

みう

キャンプ、登山、ハイキングやスキーが趣味の元エンジニア。週末に車中泊仕様の愛車ジムニーに乗ってあちこち出かけています。

北欧の国デンマークで1年間、現地流アウトドアを現地の学校で学びながら満喫。

Instagram:@miu_jn3tbz
ブログ「デンマーク徒然日記」:https://note.com/miu945

デンマークの仲間と北欧ネイチャーツアーを日本人向けに展開中。北欧の氷河に抱かれた大自然や、そこに根付くアウトドア文化に触れる普通の観光では味わえない旅を提供します。

Nordic Outdoor C.Gateway Aps:https://c-gateway.net/home/jp/
本サイトでは、週1で北欧通信も配信中。

みうの記事一覧